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事務局からの連絡 |
保険医療部より |
「骨太方針2006」と医療制度改革の今後の展望 |
9月1日 京都府医師会:保険医療部 |
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「7月7日, 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(骨太方針2006) が閣議決定され, 公表された。しかし, 6月14日に医療制度改革関連法案が可決・成立した直後であり, また小泉内閣もその終焉を迎えようとするなか, この基本方針が今後の医療制度改革関連法の運用等にいったいどのような影響を及ぼすであろうか。さらには7月21日の閣議で了解された平成19年度の概算要求基準(シーリング) をも含め, 府医保険医療部として, 一度検討・整理しておきたいと思う。
今回の「骨太方針2006」は「財政の健全化」の名の下に, 2011年度のプライマリーバランスの黒字化をめざし, 歳入・歳出の一体改革が主たる課題となった。この決定に先立って(5月22日), 政府および与党は「経済・財政一体改革会議」の初会合を開き, 骨太方針に盛り込む内容について, 検討作業を始めた。「ポスト小泉」や来年の参院選をにらんで, 与党と諮問会議, 財務省の意向がぶつかりあったものと思われる。このなかで, 4月7日の経済財政諮問会議において策定された「歳出歳入一体改革の中間とりまとめ」で示されている「改革の7原則」(徹底した政府のスリム化, 聖域なき歳出削減など) は一応了承されることとなった。そして今回は, この「経済・財政一体改革会議」が検討し, 取りまとめた内容を経済財政諮問会議が追認するという, 従来とは異なる経過での決定となった。
「骨太方針2006」は第1〜5章からなり(他に別紙と別表がある), 医療に関しては「第4章安全・安心の確保と柔軟で多様な社会の実現」の「1. 社会保障制度の総合的改革」のなかで述べられている。また「3. 総合的な少子化対策の推進」に少子化に関する記載がある。別表には, 今後5年間の歳出改革の概要が示されており, 社会保障費(年金・医療等における国と地方の負担金) に関しては2011年度の自然体で(何もしなければ) 39.9兆円のところ, 改革により1.6兆円削減して38.3兆円となっている。そのうち国が1.1兆円。地方が5千億円とされている。さらに, 別紙のなかでは「社会保障番号の導入」などについても検討すると言及されている。
本文の医療関連分野を見ると, 小児科・産科等の診療科や地域における医師の偏在への対応, 夜間・救急医療体制の整備, 生活習慣病対策, 長期入院の是正等, 実効性のある医療費適正化方策, レセプト完全オンライン化など, 医療制度改革関連法やその附帯決議に盛られた内容が再度述べられている。がんをはじめとする疾患に対する医療の均てん化の問題や後発医薬品市場の育成などについても, 淡々と述べられている。われわれの懸念する「保険免責制」や「総枠管理」などの文言は見当たらないが, 「患者特性に応じた包括化・定額払いの拡大等新たな診療報酬体系の開発, 保険者機能の強化」など注視すべき一文もある。
また介護に関しては, 介護予防の推進, 療養病床の再編にからむ地域ケア体制の整備,総合的な認知症対策の確立等を掲げている。唐澤日医会長は直ちに「医療・介護分野においては, 給付費抑制一辺倒の内容となったことに強い憤りを感じている」と声明を出している。またこの中で, (1)16年度の国債発行残高増加額70兆円に対し, 社会保障費の増加額は0.6兆円(1%) に止まっており, 国債発行のなかで大きな割合を占める建設国債, 財投債にもっと厳しく切り込むべきであること,(2)150兆円にもおよぶ公的年金積立金に目を向けるべきである(積立金の一時的な取り崩し) こと, (3)個人の保険料と自己負担など家計の負担が増大する一方で事業主の負担は低下し続けており, 事業主負担の引き上げも検討すべきであること,(3)消費税の引き上げに関しては, 公共事業費をはじめとする特別会計に隠れている無駄や非効率を徹底的に排除するなどした上での最終手段と位置づけるべきであることなど, 財源論にも言及している。もっともな声明であり, 特に(1), (3)は重要な指摘であると考えるが, これまでの唐澤会長の一連の言動を鑑みるに, “強い憤り”には若干の違和感を禁じえない。
政府は7月21日の閣議において, 「平成19年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」を了解。これは骨太方針2006を踏まえたものであり, 今後5年間の新たな改革に向けた出発点となる重要な予算であると位置づけている。一般歳出の概算要求基準(シーリング) は18年度より4400億円多い46.8兆円, 社会保障費は自然増7700億円に対し,5500億円が提示され, 2200億円圧縮することになっている。骨太方針は, 社会保障関係費については今後5年間で1.1兆円(国ベースで) 削減するとしており, この2200億円はまさにその5分の1の相当する。しかしこの閣議後の記者会見で, 川崎厚労相は「19年度の2200億円の圧縮は受けるが, 20年度は新たなスタートで議論する」と述べ, 「5年間で1.1兆円」に必ずしも拘束されないとの見解を示した。2200億円の圧縮方策は雇用保険と生活保護の見直しで対応することになっているが, 不足することが予想される。
「骨太方針2006」は来年度の参院選を意識してか, われわれの目にはトーンダウンしたように写る。ただ歳出削減の数値目標は明確で厳しいものがあり, 医療制度改革関連法との整合性もどのようになっているのかよく分からない。医療制度改革関連法は多くの法律にまたがり, かつ長期にわたって順次施行されてゆくため, その効果の検証にも当然ながら多くの歳月を要する。骨太方針に見られる性急な短期数値目標やシーリングはセーフティネットを破壊し, 国民生活を混乱に落としいれる危険があり, われわれは京都府医療推進協議会などを通じて府民や国民に訴えていく必要があると思われる。また唐澤日医会長が示した如く, 財源論に踏み込むことについては, 賛否両論があろうが, 防戦一方となっている状況を打開する上で, 重要な手段となる可能性があると考えられる。 |
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